いぐあな

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父親の最後の愛。300字小説。

さよならの前に

「違う!」
 私は叫んだ。
「ママが嫌いになったんだろう? だったらパパと一緒にあの世に行こう」
 一ヶ月前、事故で亡くなったパパが半透明の手を伸ばす。
「嫌いじゃないもん! ちょっと喧嘩しただけ……」
 そうパパが亡くなって私もママもいっぱいいっぱいになっていただけだ。
「ママだって悲しいのに、私の為に仕事頑張って……そんなの愛がないとできないよ」
「そうか?」
 パパがニヤリと嫌らしく笑う。その笑みに私は確信した。
「アンタなんかパパじゃない! あっちにいけ!」

「愛があれば何でもできる?……か」
 妻と娘のいる家を見下ろす男に「できたな」と死神が笑う。
「まあな……二人とも仲良くな」
 男は小さく肩を竦めると窓の灯りに手を振った。

お題「愛があれば何でもできる?」

5/16/2023, 12:04:39 PM