"入道雲"
──うわぁ、日差し強っ……。
午前十時を少し過ぎた頃、ふと処置室を見ると、爛々とした陽光が室内を差していた。丁度ベッドの上にかかっている光がある。
幸い今はまだ患者はいない。少しベッドの位置をずらそうと、ベッドに近付く。
近付いて窓の外を見やると、遠くの空に白く大きな入道雲が立ち上っていた。
「立派なもんだなぁ」
──こっちに来なきゃいいけど……。
錠を降ろし窓を少し開けて、風向きを確認する。
入道雲は別名【積雷雲】。入道雲の下は激しい雷雨に見舞われているという事。
だが夏と言うには、まだ少し早い。現に今見えている入道雲は小さいサイズ。雨は降っていてもそこまで激しくは無いはず。雷の可能性は少ない。
掌を窓の外に出し、風を感じ取る。微風の為すぐには分からなかったが、こちらに向いていない事は分かって、一先ず安心と胸を撫で下ろす。
──念の為バスタオル用意するか。
身を翻し処置室を出ると、備品室から患者用のバスタオルを八枚程抱え診察室に戻った。
6/29/2024, 12:32:47 PM