えむ

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白1色で統一された部屋
香る消毒液の匂い
パリパリとした触り心地の患者服
厚さが感じられないシーツ

秋晴れのような髪色
柔らかな手
幼い顔
2匹の黒猫

『どうしたの?』

姉の声
落ち着く音
抱き締めたくなる色
大好きな人

今はもう居ない

『サイ、仕事だ』

名前を呼ばれたから起きる
仕事と言われたから立ち上がる
手入れの行き届いたスナイパーライフルを手に取る

『サイ、コレを見ろ』

机に広げられた地図
言われた通りソレを見やる

『サイ、この位置で待機だ』

細かな位置と丸が赤く描かれている
自分の視線を誘導するように指先がそこを指した

『サイ、今回のターゲットはコイツだ』

地図に覆い被せられるように男の写真を置かれる
手入れの行き届いていない黒い髪
荒れた肌に濁った瞳
中途半端に生えた髭

『サイ、覚えたな?』

その問いかけに首を縦に振った
“じゃあ行ってこい”と言われたから
武器1つのみで移動を始める

『アイツ寝てたのか?』
『いつも寝てるようなものだろ、返事1つしない』
『“感情”を奪われたガキか…哀れなもんだな』
『あったらあったで困るだろ、敵に同情なんかされたら俺らの仕事が増える』
『それもそうだ』

後ろから聞こえる声
ちゃんと聞こえてる

悲しいも嬉しいもちゃんとある
でも人の死は複雑過ぎて分からない
まだ生命の重さを測れない

『…お姉ちゃん…』

それでも欠けた何かを想う


〜あとがき〜
成功

10/30/2024, 12:06:43 PM