力を込めて
河原。
遥拝。
清流の流れる音を聴く。
澄んだ水の底から湧き出る泡を見る。
上流から流れて来た石の丸みに触れる。
全身全霊の力を込めて、祈る。
羽音が近づいて来る。蜂の大群だ
なぜだ。こんなに禊いでいるのに。
水の流れの中にきらりと光る魚の腹が見えた。
ああ、どうしても祓えない。
祈りは届かない。
心も体もずっとざわざわしている。
そんな感じ。
その時何かにぶつかって、私は尻もちをついた。ぬめっとした感触が足に残る。
大急ぎで近くの大岩によじ登った。
そして上から川底を見た。
ものすごく大きな黒い塊が動いている。
山椒魚!
私はあれの行く手を塞いでいたのか。
そう思うと急に可笑しくなって、岩の上で腹を抱えて笑い出した。
私は夜明けと共に起きて、さっきまで延々と深刻な顔をして祈ったり祓ったりキョロキョロしたり、なんと絶望までしてたのか…ダメだ笑いが止まらない。
ひとしきり笑って疲れ果て、汗をかいたので、岩の上から川に飛び込んだ。
浅瀬に横たわり、両手を広げる。
水の流れが心地良い。
何もかもみるみる剥がれて行くようだ。
水が勝手に流してくれる。
光が眩しいな。
風も気持ちいい。
そうか。そうだよ。それはそうだ。
力を込めるのではなく、力を抜くんだった。私から私を抜く、脱ぐ。
それだけでよかったんだ。
10/8/2023, 8:37:18 AM