《幸せとは》
「幸せって何だと思う?」
「こうしていることかなー」
正月休み、二人で炬燵に入りながら、
ダラダラと手を伸ばし、籠に入った蜜柑を食べる。
「いや、そういうんじゃなくて」
「じゃあ、どういうのだ。定義的なやつか?そもそも何でそんな質問をするんだ」
「いやほら、最近よく聞くじゃない。
自分のやりたいことがわからないみたいな話
私の同級生にもそういう子がいて、質問されたのよ」
「ふーん」
彼は上体を起こし、テレビをつけた。
俳優のドキュメンタリー番組がやっている。幼い頃に子役として出演し、苦労の末に海外の大学に出て……など、調べたら出てくるであろうことをドラマチックに描いている。
「見落としてしまうものかな」
「見落とす?」
「例えば、料理が好きで料理人になった人がいたとしよう。調理の過程が楽しくて、その子は必死に頑張って、料理人になった。
だけど、効率化を求めるうちにその過程が楽しいものじゃなくなっていく…。
そうして、何故、料理人になりたかったのか忘れてしまう。
その上、今はSNS全盛期、
同世代、もしくは下の世代の誰かが自分が大したものを作れなかった頃に、もっと美味しいものを作ってる。そんなのを簡単に見れてしまう。」
「人間は相対的に価値を判断しがちだから、
いつしか自分の幸せを見落としてしまうのさ。」
何となく、気まずい沈黙が訪れる。
彼は再び体を倒して、ごろごろとした。
「人なんて、それぞれなんだけどね」
「全くだ」
テレビを消し、もう一度寝転ぶ。
今度は会話もない。
ただ、暖かく、寝転んでいるだけ。
でも、何となく幸せだなと思った。
1/4/2024, 3:35:05 PM