七色
部屋の隅で、何かがかすかに動いている。しゃがんで目を凝らすと、カミキリムシだった。そのまま、背中のところを持って、テーブルに置いた。背中の羽が七色に光って綺麗だ。
「お前、どこから来たんだ?」思わず聞いてみたが、むろん返事などしない。黙って、長い触覚をゆらりと動かす。冬だから、窓はほとんど開けないし、体長3センチはあるカミキリムシが、どこから来たのか不思議だ。
しばらく、その七色の背中を眺めていたが、ふと何を食べていたのか気になった。いつ入り込んだか分からないが、その間ずっと食べられなかったとすれば、弱っているに違いない。
調べたら木の葉や花びらを食べるようだが、男やもめの殺風景な部屋に、観葉植物など無い。
可哀想になって、外に出してやろうと思った。近くにあったクリアファイルに乗せて、顔をよく見た。
「ん?お前、寒さに弱いかな?」
小さな口をモシャモシャ常に動かしている。「ん?『枯れた草の下で越冬する』かぁ」
庭に出て、植え込みの根元のあたりに置いてみた。カミキリムシはもそもそと移動して、枯れ葉の陰に消えようとしていた。
その七色の背中を、しばらくオレは眺めていた。
No.149
3/27/2025, 3:42:11 AM