真っ暗な部屋で携帯端末を触る。明日も仕事なのに、眠れないのだ。何とか眠気を誘えるように難しい話を電子書籍で読んでいたが、画面の明るさで目が冴えてきた。寝る前に、携帯端末を触るのが悪手なのは分かっている。でも、目を瞑れば今日の脳内反省会が始まってしまう。散々反芻した自分の今日の反省点を脳内の小さな自分たちがあげつらう。それから帰りの会の公開処刑のごとく、今日の行動について意見が飛び交い、結局自分が悪いと言う結論になるのだ。毎晩眠るまで内省で悶えるぐらいなら、睡魔で気絶するまで携帯端末を触っている方が良い。気が紛れるし、考えなくて済むからだ。端末の時計は午前二時を表示している。もう二時か。この調子だと寝坊するかもしれない。それでも頭は覚醒したままだ。まあ、無理に寝ようとしない方が精神的には良いだろう。肉体的には良くないが。SNSのアプリをタップし、開く。この時間帯は皆深夜テンションで投稿しているのか、怪文書がよく流れてくる。次の日の夜になっても残っているので、正気で書いている可能性もありそうだ。トレンドを確認すると、箱というワードが入っていた。開くと、部屋の中で箱型に潰された人間の遺体が見つかった事件の記事が出てきた。興味本位で記事を読む。遺体は綺麗な正方形ではなく、どうやら部屋の形に沿って潰れているらしい。まるで部屋ごと圧縮されたかのような書き方だが、記事の写真を見る限り、部屋は潰れていなかった。被害者の血痕は部屋の壁の至る所に飛び散っていたが。ベッドの上で布団と一緒に圧縮された状態だったので、寝ている間に潰されて死んだようだ。コメント欄を読むと、ある都市伝説の仕業じゃないかという書き込みを見つけた。検索すると、最近出来た噂のようだ。要約すると、真っ暗な部屋で寝る人間を無差別に狙うらしい。検索結果には似たような事件の記事や現場らしき部屋の写真が数枚出ている。起き上がり、部屋の中を見回す。カーテンを閉めているため、真っ暗で何も見えない。この暗闇の中に、私が寝るのを今か今かと待ち望む噂の何かが潜んでいるのだろうか。…寝る前に読むんじゃなかった。いや、見つけて正解だったのか。取り敢えず、今日からは常夜灯をつけて寝ることにしよう。欠伸が出て、まぶたが重くなってくる。そろそろ眠れそうだ。常夜灯をつけ携帯端末の電源を落とし、目を閉じる。意識が薄れていく中、ミシッと部屋の角から音がしたような気がした。
5/18/2024, 2:25:40 AM