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ぼくが君に気付いたのはほんの少し前のこと。

微かに聞こえた声に耳を凝らした先に君がいた。
君はぼくも君を見ていることに気付かずに、ぼくに語りかける。真っ暗で、月明かりだけが君と君のいるベランダを照らしている。

「綺麗。わたしもそうなれたらいいのに」

そう言って哀しそうな顔をする。
そうか、君はまだ知らないんだね。

君が綺麗と言ったぼくは、君だってこと。
ぼくは昔君だったし、いつかは君になるってこと。
君は昔ぼくだったし、いつかはぼくになるってこと。
そして君の中に、ぼくのカケラがいること。
ぼくの中にも君のカケラがあって、
君とぼくは同じだってこと。

そしてぼくは思い出す。
ぼくも、君とぼくが同じだと知らずに泣いたことがあったな、と。

思い出した時にたったひととき瞼を閉じて、開けた時には君はもうどこにもいなかった。
またいつか君の声が聞こえるだろうか。
何千年、何億年か後にまた君の声が聞こえても、ぼくはきっと覚えているよ。
その時はどうか、幸せにぼくを見つめる君でありますように。



───「見つめられると」

3/29/2024, 11:37:37 AM