『紅茶の香り』
日曜日の昼下がり。一番大きな窓の側には、小洒落たテーブルがひとつ、一人掛けのソファがふたつ。
その一つに腰掛けて、あなたが来るのを待つ。数分もしないうちに、片手には白いポット、もう片方には焼き立てのスコーンを乗せた、これまた白いお皿を手にしたあなたが、キッチンから優しい笑顔で歩いてくる。
テーブルセットを終えたなら、紅茶もちょうど飲み頃になる。真白なポットで蒸らしたそれを、あなたは慣れた手つきでティーカップに注ぐ。大きくて骨張ったあなたの手が華奢なカップを持ち上げるのが、どこかアンバランスで少し可笑しい。透き通った琥珀色がティーカップを染めると、ふわりと鼻腔をくすぐるのはどこか高貴で優雅な香り。二人顔を見合わせて、期待に溢れた互いの表情に、声を揃えて笑った。
………
……
…
「……ああ…、またこの夢、ね…。」
私の日曜日の朝は、この夢から始まる。ほんの数年前は現実にあった、幸せな時間の夢。彼と過ごしたとっておきのティータイムは、週末のちょっとした贅沢だった。
あの優しい時間が現実に再び訪れることは、もう二度とない。あなたが私に遺したのは、悲しいくらいに白く美しい二人分のティーセットと、幸せの残滓みたいなこの夢。もう戻らない愛おしい人の記憶に、私はみっともなく縋り続けているのだ。いい加減前を向けと自分で思う。もう三年、まだ三年。私にはまだ短すぎるみたいだ。
紅茶の香りは、未だに恋しい。
10/28/2023, 12:41:54 AM