「やっぱお金より大事なものって、優しさだよなぁ」
そいつはニヤけながら言った。相槌を打つのも面倒で、俺はテレビを眺めたまま無視することにした。それを意に介することもなく、男は勝手に「っていうのもね」と続ける。
「俺こないだ、駅でおばあちゃん助けたの」
「…………」
「そしたら今日、ぐうぜん再会してさぁ。あのときのお礼にって、飴ちゃんもらっちゃった」
「…………」
「いやー、いいことってするもんだなぁ」
シカトされているというのに、かまわず上機嫌に話し続けられるのはすごいと思う。そいつは続けざまに「ほらこれ」と言って勝手に俺の右手をとると、手のひらに飴をひとつ乗せてきた。
「二個もらったから、一個あげる」
「いらん」
「なんで!?」
「ハッカ嫌いなんだよ」
「えー。せっかくシェアハピしようと思ったのに」
不満げに唇を尖らせながら、俺から飴を取り上げて、包みを剥がし始める。ハッカのすうすうする匂いが横から流れてきて、俺はちょっと眉を寄せた。かろかろ、と口の中で飴を転がす音がする。
「とにかく俺は、これからも困ってるおばあちゃんがいたらどんどん助けていこうと思うんだ」
「おばあちゃんじゃなくても助けろよ」
「そんなん言われなくてもわかってるよ。おじいちゃんも助けまくるわ」
「おじさんとおばさんもな」
「……お前さぁ、揚げ足とって楽しい?」
じとりと睨まれて、思わずふっと笑った。楽しいか楽しくないかと訊かれたら、正直かなり楽しい。わかりやすい反応が面白くて、つい捻くれたことを言ってしまうのだ。あと単純に、こいつが楽しそうにしてるとなんかムカつくっていうのもある。
「ごめんごめん」
「ごめんは一回。反省してないだろ」
「優しさを謳うならちょっと揶揄うくらい許せよ」
「……お前なあ、相手が俺じゃなかったら今ごろタコ殴りだぞ? 俺だからいいけど」
俺だって相手がお前じゃなかったら、こんな意地の悪いこと言わないけどな。というのは、口には出さないでおいた。
【テーマ:お金より大事なもの】
3/8/2026, 12:59:07 PM