たーくん。

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突然降り出した、大粒の雨。
今日は曇りで、雨が降るとは天気予報で言ってなかったのに。
しかも下校する時に降るなんて、最悪。
皆は傘を持っていて、次々と出ていく。
私は傘を持っていないから、止むまで下駄箱近くで待っていよう。
「田中じゃん、なにしてんだ?」
帰っていく皆の後ろ姿を眺めていると、同じクラスの上田君が話しかけてきた。
最近、気になっている男子だ。
左手には鞄、右手には傘を持っている。
「傘忘れちゃってさ……止むまで待ってるの」
「予報では夜まで降るらしいから、しばらく止まないぞ」
「えっ、じゃあ濡れて帰るしかないかぁ……」
まぁ、走って帰れば10分で帰れるだろう。
ずぶ濡れになるけど、お風呂に入ればいっか。
「だったら一緒に帰ろうぜ。俺の傘に入れてやるよ」
「……へ?」
思わず、思考が停止する。
今、なんて?
「一緒に帰ろうって言ったんだよ。帰り道同じだし、田中の家の前通るし、ちょうどいいだろ?」
「う、うん。それはそうだけど……」
そういえば、何度か上田君と一緒に同じ道を通って帰ってたっけ。
一緒にというか、少し離れた距離で歩いていたけど。
「じゃあ行くぞ」
上田君は外へ出て、傘をさした。
「ま、待ってよー!」
慌てて上田君を追いかけ、傘の中に入った。
気になっている男子と、傘の中で二人きり。
これ、相合い傘じゃ……。
意識し出したら、ドキドキしてしまう。
傘を忘れてきて、正解だったかも。
「ん?どうした?ニヤニヤして」
「ううん。なんでもないよっ」
このまま、時を止めてしまいたい。
だけど、幸せの時間は早く過ぎる。
だから、出来るだけ家までゆっくりと歩き、幸せの時間を引き延ばした。

11/5/2025, 10:12:23 PM