西の護符屋

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 世話係は、オレのことをラッキーと呼んだ。なんでも恋人に振られて、買うはずだった恋人の誕生日プレゼントの予算で買ったくじ、その当選金でオレを迎え入れたかららしい。
 今日は世話係が「友達皆で前々からすることが決まってたから仕方ない」キャンプとやらに連れてこられた。
 「可愛いー!」
 そう言って、ベタベタ触ろうとしてきたメスに軽くうなってやる。馬鹿にすんな。世話係が泣きながら捨てていたアレコレにオマエの臭いがついてんだよ!
 唸ったオレに眉毛を下げて、世話係は会釈だけして離れた川縁にオレを連れて行った。
 吠えずに偉かったろが。
 目線で問うと世話係は何も言わずにボールを投げた。持ってきて頭を撫でさせてやる。ほらもう一回投げろ。
 投げさせる、取る、持ってきてやる。撫でさせてやるを何十回か繰り返した後、世話係の仲間が焼かれた肉を持ってきた。オレには味のついてない奴だ。コイツ良い奴だな。
 肉を食い終わると世話係はオレをひと撫でして、仲間のところに連れて戻って行った。
 オレはもうあのメスにも唸らなかった。でも世話係と肉をくれたオスにだけにしか尻尾を振ってやらなかった。

テーマ 言葉はいらない、ただ…

8/30/2024, 2:30:40 AM