声が聞こえた。
それはずっと前、僕がまだほんの小さな赤ん坊だった頃から聞こえていたものだ。
静かで、穏やかで、それでいて悲しく訴えかけるようなそんな声。
けれど、この声は僕以外には聞こえなくて、周りの大人達に言っても誰も信じてくれなかった。
ただ一人僕のおばあちゃんを除いて。
もうその声を聞いてはいけない、引き込まれてしまうよ。
おばあちゃんはそう言っていた。
それ以来私はその声を必死に無視し続けた。
そして、いつしかその声を聞くことはなくなっていた。
おばあちゃんが死んだ。
老衰だった。
そして、おばあちゃんのお葬式の帰り、雨でハンドルを取られた車が突っ込んできてパパとママが死んだ。
その時からまた声が聞こえ始めた。
パラパラと雨が私の体を濡らす。
普段は傘をさすせいで感じることはないが、肌を打つ雨の感触は中々に気持ちのいいものだ。
(ーーーーー ーーー ーーーー)
降りしきる雨の隙間を縫うように、雨の雫に寄り添うようにあの声が私を呼ぶ。
もう無視しようもないほど大きな声で。
「…今行くから」
思えばこれは必然だったのかもしれない。
初めてこの声を聞いた時から私はこの声に惹かれていた。
けれどこの声に引き込まれないように私の大切な人達が私を引っ張っていてくれたのだ。
私を止める人はもう誰もいない。
だから、これは仕方の無いことなのだ。
一歩足を踏み出す。
眼下に広がる街並みはずっと傍にあったはずなのに何処か初めて見るかのような妙な新鮮さがあった。
それが少しおかしくて頬が緩んだ。
(ーーーー ーーーー ーー)
俺が初めて彼女に会ったのは高校の入学式の日だった。
何処か浮世離れした子で、一房だけ白い髪と普段から乏しい表情がまるで彼女を触れてはいけないものかのように
9/8/2025, 7:00:09 AM