椎名めばえ

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お題:スマイル(本文中は笑顔に書き換え)
#.hpmiマイナス 🎲 (⚠︎︎死ネタ)




私は見てしまった。大好きな彼の浮気現場を。
見知らぬ女の腰を抱き寄せ、口付けを落とす男は、紛れもなく私の彼氏である帝統だった。

いつも私にベッタリな彼だからこそ、隠れてこんなことをしているなんて信じられなかった。
その日はもう帰ってこないだろうと思っていたが、驚くことに帝統は当たり前のように帰ってきた。

「ただいま」
「なに、あの女のとこに行ったんじゃなかったんだ」
「昼間は悪かった。でもあれは違うんだ、信じてくれ」
「違う?あれはどこからどう見ても浮気でしょ」
「あれにはちゃんとワケが」

乾いた音が部屋に響く。私は耐えられずに彼の頬を叩いていた。

「あんたの顔なんか見たくないから。もう今日は出てって」

帝統は自身の頬に手を当てつつも、本当に悪かった、と彼らしくもなく涙を流しながら部屋を出ていった。

それから一週間経っても帝統は帰ってこなかった。元々帰ってきたり来なかったりを繰り返していたから、3日ほど帰ってこなくてもいつもの事だと思っていた。それどころか喧嘩をしたことで、あの女のところに行っちゃったのかな、なんてことも考えたりしていた。

そんな私が真相を知ったのは、喧嘩をしてから2週間ほど経った日の事だった。

「○○さんですか?」

帝統の友人を名乗る夢野という男が訪ねてきたのだ。
彼が言うには、帝統は私と喧嘩をしたあの夜、事故に巻き込まれて亡くなったらしい。

正直に言うと、ひどくショックだった。私が彼を追い出したから彼は事故に巻き込まれたのだ。あの時私が追い出さなければ、私がちゃんと向き合って話を聞いていたならば。

思えば私が最後に見た彼の表情は泣き顔だった。
大好きな彼だからこそ、最期は笑顔でいて欲しかった。でもそれを奪ったのは他の誰でもない、私だ。
これは私が一生背負っていく十字架だ。どうか愚かな私を許さないでいて。



2/8/2023, 6:09:30 PM