かたいなか

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「友情っつー友情でもないが、3月7日か6日あたりに『絆』っつーお題があった。あと、友情じゃなく愛情。『愛と平和』とか『愛を叫ぶ』とか」
ひとつ物語を組んでは納得いかず白紙にして、もうひとつ物語を閃いては以下省略。このままでは19時に次の題目が来てしまうと、某所在住物書きはため息を吐いた。
「書いて消して書いて消して。自分の納得いくハナシが出てこないからまた消す。……妥協って大事よな」
愛情の長続きも友情の長続きも、小説書くのも意外に根っこが一緒で、適度な距離を保ってどこかで妥協するのが大事、なのかも。
物書きは再度息を吐き、天井を見上げた。

――――――

寂しがり屋な捻くれ者と、その後輩が、美しき友情により結託して、高温続く今日から金曜までのリモートワークを勝ち取る。
そんなネタを、思い浮かんだは良いものの、うまくストーリーを組めなかった物書きです。
そこで本日は昔のおはなし、年号が令和に切り替わった直後のおはなしを、ご用意しました。

「藤森。この案件は、お前がやれ」
「お言葉ですが、宇曽野主任。私などが担当するより、主任がおやりになった方が、確実に、迅速に終わると思いますが」

5年前、2017年の都内某所。某職場。限りなくブラックに近いグレーのそこ。
2023年現在は隣部署同士。しかし当時は同部署の、入社3年生な捻くれ者と、その教育係兼上司。藤森と宇曽野という親友ふたりがおりました。
右手と左手を合わせ、握り合い、
左手と右手でバインダーを押し返し合い、
ギリギリギリ、グギギギギ。足を開き腰に力を入れ、柔道ごっこかレスリングごっこをしている様子。
親友同士が手を取り合って、譲り合う。
友情いっぱい。とても美しい光景ですね。

「お前が他のやつらを全然頼ろうとしないから、協力し合う習慣をつけさせるために、これを預けるんだ」
「人は得意不得意があります。私は単独の方が力を発揮できるし、ミスも少ない。ご存知でしょう」
「うるさいコレでチームを頼れ。誰かと手を取り合うことを学べ。お前に足りないのは『他人』だ」

他人に手を差し出せ。上司の宇曽野が諭します。
その他人に心をズッタズタにされたので、無理です。3年生の藤森が訴えます。
ともかく宇曽野は藤森と他人の手を繋がせたがり、藤森はまだ宇曽野以外の他人が怖いのです。
片や友を思うがゆえの厳しさ、片や目の前の親友ひとり以外心を開けない弱さ。初々しい背景ですね。

「そもそも何故友人の俺に他人行儀で話す」
「ご自身の役職お忘れですか。宇曽野『主任』」
「また他人行儀で言った。ペナルティーにこの案件」
「『パワハラ』もお忘れのようですね。『主任』」

ギリギリギリ、グギギギギ。
仕事の譲り合いはその後数分続き、結局、藤森が受けて単独で処理。
そんなこんなしていたふたりも、5年経過した現在では、双方職場でもタメグチの仲良しで、笑い合い語り合い、互いが互いのプリンを勝手に食べて喧嘩したりするのですが、
その辺に関しては、過去投稿分参照ということで。
おしまい、おしまい。

7/25/2023, 5:08:24 AM