あにの川流れ

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 「はぁ、変わらないものはないんですね」
 「どうし――――ン゛、ぼくデジャヴ感じてる」

 カチャリと置かれたカトラリー。はぁ、とまたため息をしたきみはキッチンにおかわりを盛りに行った。
 常々思う。きみはよく食べる。
 ほんと、まあ、よく食べること。
 一般的に言えばきみは細身なほうなのに、本当によく食べる。カレーなんて一晩寝かせる間もなく、その日に食べきっちゃう。

 巻き戻されたみたいに盛られたお皿を見て、ふと思った。

 「話変わるんだけれど、きみってばそんなにたくさん食べて、将来、お腹出るんじゃない?」

 お皿に向かっていたきみの手が止まる。

 「――――――ません」
 「え?」
 「話変わってませんッッ‼」
 「あー……」

 頭を過ったのはここ数日の食事。
 世の中が浮かれてるってことはその世の中に生きるぼくたちも浮かれてるってこと。イベントだからって手の凝ったものをつくっては食べ、甘いケーキで普段の摂生をなかったことにし、年末だからと冷蔵庫の中身もあれよあれよと捌けさせた。
 のに、新年に向けて冷蔵庫に蓄えている。
 ついでにお酒も。
 今年はおいしいワインをきみと呑めてよかった。

 ……じゃなくて。
 
 きみを見れば止まっていた手は順調にお皿の上を片付けていた。さめざめとしていた割には、ひょいぱく、ってなかなかの食べっぷり。

 「おいしい?」
 「……えぇ」

 少し硬い声で、でも確かに頷きながら答えるきみに思わず苦味を含んだ笑いがこぼれちゃう。
 盛っちゃったものは仕方ないね。食べなきゃもったいない。

 味変がしたくなって傍らのビールを一口。
 しゅわしゅわの大人の味が口の中で弾ける。炭酸の爽快感が喉を通って油っこいのももったりとした味覚の集合体もぜんぶ流してくれる気分。思わず目を細めちゃうほどおいしいやつで、これぞ至福! って感じに近い。
 あーお酒おいしい!

 「あなたもですよ」
 「え」

 じーーっと見てくるグレイの目。
 エッいつから見てたの?

 「あなた、わたくしほど食べませんけれど、うんとお酒を吞みますよね?」
 「えー? 普通じゃない?」
 「だとしても、それが蓄積されてゆけば後々、将来お腹は出るでしょうね」
 「エ゛ッ……」

 それは困った。
 とっても困る。

 お皿を持ったきみがスッと席を立つ。

 「変わらないものはないんですよ、何事も」
 「……そうだね。ところでそれは?」
 「? おかわりですけれど」
 「そ…っか」

 ゆるく、ゆるーーーく変わってゆくのもいいよね。
 ウン。



#変わらないものはない


12/27/2023, 8:10:23 AM