薄墨

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一年では短すぎるから。
水分をしっかり抜いて、染料に浸して、保存液につける。
茎を丁寧に切り取り、鮮やかな花が生き生きと、これから少しでも長く咲き誇れるように、加工する。

プリザーブドフラワー。
一年で枯れてしまう一年草も、花を早々に枯らして株で生き残る多年草も、こうすれば、二、三年は咲いたままになる。

一年間というものは、本当にあっという間だ。
春夏秋冬。目まぐるしく変わる季節と状況に、慣れていくだけであっという間に過ぎ去っていく。
といって、永遠、というのも重い。
永遠と言わずとも五年、十年と不変というのも、不自然だし、停滞という感じがして、居心地が悪い。

私にとっては、二、三年がちょうど良いのだ。
変わりなく、現状維持で、ゆっくりと停滞したまま過ごす時間は。

そんな想いを込めて、私はプリザーブドフラワーを作る。

昨日、告白された。
生まれてこのかた、恋心など微塵も抱いたことがなく、そのために、恋愛的観点からの見目や振る舞いに心を砕いたことすらないこの私のどこに惹かれたのかは理解できないが、
とにかく、告白されたのである。

断るつもりだった。
しかし、私の目の前で、必死に、吃りながらも、私の好きなところについて、私と一緒にいたいということについて、喋り続ける人を見て、なんだか断りづらくなったのだ。
話しながらも、震えながら握りしめている手を見て、突き放せなくなったのだ。

こんなに一生懸命で、真剣な人の想いを、面倒だから、恋をしたことがないから、なんて軽い気持ちで片付けるのは、不誠実だと思った。
しっかりと、真剣に考えて誠実に答えたい、私はそうしたい、そう思ったのだ。

だから、私はできるだけ誠実に、説明をした。
私は恋をしたことがないから、あなたの気持ちを正しくは理解できていないと思うこと。
でも、あなたが誠実で、真剣な想いで私に告白してくれたことは分かるから、気軽に、簡単に返事はしたくないこと。
あなたの気持ちを真剣に考えて、自分の気持ちに真剣に向き合ってから返事をしたいということ。
だから、一日待ってほしい、と。

それを聞いたあなたは、ホッとしたような泣き笑いのようなそんな顔で、頷いた。
「そういうところが好きです」そう言って。

一晩考えた。
考えて気づいたのだ。

私は停滞や不変は苦手だ。
かと言って、短い間にくるくる変わるのも疲れてしまう。
私にとって、変化は二、三年のスパンがちょうどいい。
プリザーブドフラワーのように。
それはきっと、一緒にいる人間との関係に対しても、そうなのだ。

告白をしてきたあの人と、私が知り合って、ちょうど三年くらいになる。

私は、返事を決めた。
そして、この気づきをしっかり伝えるために、プリザーブドフラワーと一緒に、返事をすることに決めたのだ。

プリザーブドフラワーは、綺麗に咲き誇っている。
思ったより良い出来だ。
きちんと手入れをして、保管しておけば、三年は保つだろう。

一年は短すぎる。
五年、十年は長すぎる。
だから。

今日、私は返事をする。
プリザーブドフラワーを添えて。

4/7/2025, 11:02:50 PM