飲みかけのストロングゼロを天高く掲げれば、逆光を浴びたそれはまるで芸術じゃないか。謎の黒い円柱って感じでミステリアス。
そしてこの中に入っている古代から人を迷わせてきた「あるこほる」なるものも然り。
なぜか笑いが込み上げていざ「くくく」と笑おうとしたらあるこほるが気管に入ってむせた。
「かひーっ」
ブランコで遊んでいた少年が、いつしか漕ぐのをやめてじっとこちらを見ていた。それに気付いた母親らしい女性は、少年の視線を遮るように割り込んだ。
おれだって、あれくらい小さくて純粋だった時代もあったんだぞ。
それがどうだ、新卒で入った会社と折り合いがつかず一ヶ月で心が折れ、アルバイトの求人に応募しては敗れる日々だ。そりゃ、昼間から公園の地べたで飲みたくもなるさ。
缶を煽ってストロングゼロを飲み干そうとした時、誰かがおれの前に立って太陽を遮った。
「やっと見つけた」
聞き覚えのある声に、9%のアルコールが吹き飛んだ。
立ちあがろうとしたら肩をつかまれた。
「ひぃ、人違いですっ!」
「人違いだって? 忘れるわけがないでしょ、こんなクズ」
漆黒のスーツと赤い口紅。逆光を受けた彼女は、一ヶ月前に会社で最後に見た時よりもすごみが増していて。
「しゅびばせんしゅびばせん!! でもおれもう嫌ですあんな仕事!!」
「つべこべ言わない! 除霊できる新卒なんて上玉、逃すわけないでしょうよ」
「いやだいやだー! 」
ブランコにいた親子がこちらの様子を見ている。あっあいつら足が透けてる。
ちくしょう、おれがこんな体質じゃなければ。
【お題:逆光】
1/24/2024, 3:50:48 PM