明永 弓月

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 推しはいればいるほどいい。
 彼女は言っていた、推しは増えるものだとも。変わることはないのだと。時期によって少し熱量が異なるだけで推しであることに変わりはない。笑顔でそう言っていた。彼女が今よく話す推しのことではなく、以前より推している人の話を振ってみれば、その口は止まることなく話が続くのだから彼女の言い分には納得する他ない。

 推しが死んだ。
 彼女は暗い顔でそう言った。これを悲壮感漂う、というのだろう。実例を見た。
 詳しく話を聞いてみると、あるシリーズの小説に推しているキャラクターがおり、最新刊でそのキャラクターが死んだという。推しが死ぬのははじめてではないし、主人公にとっての保護者的な立場の人物だったので彼の成長のためだろう。そう言いながら彼女の目は潤んでいた。

 自分のことではなく、あくまで推しなのにそこまでの熱量向けるのはわからない、という声を聞いたことがある。彼女を見ているとその意見に頷ける部分もある。でも、それ以上に彼女はいきいきとしているから、他者に迷惑をかけなければ何と言われようと気にしないでいいように思う。その声については彼女も知っていたらしく、別の人間だから相容れない価値観もあるよ、と苦笑を見せていた。
 推しのことで一喜一憂する彼女は眩しい。人の心に灯火があるとしたら、彼女の心の灯火は煌々と揺れているのだろう。

9/2/2024, 11:24:19 PM