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傘をひらいた
雨をよけるためじゃない
ほんとうは、あれは――
世界を裏返すための道具

ぽたり ぽたり
空の音が落ちてくる

傘の内側に うすく広がる
知らない街の 知らない空
雲が地を歩き
魚が空に浮かぶ
影が光を追いかける、そんな世界

傘の内は 静かすぎて
耳の奥で 時間が鳴っている

ときおり聞こえる、小さな声

「こっちの方が、本物じゃない?」
「あなたの世界、少しだけ 傾いていたよ」

傘を閉じれば この夢は壊れる
でも たった一瞬
名も知らぬ風が こちらを見る

そして私は気づく
もう戻れないかもしれないと

それでも、そっと
また傘を――開く

6/2/2025, 1:12:25 PM