「寒い、身体の感覚が無くなってきた」私は呟く。完全に遭難した。一面銀世界で方向感覚も分からない。何時間歩いてるのだろう?ひたすらに足を動かす。立ち止まってしまえば、そのまま意識がもっていかれそうだから。「誰か助けて」どうしようもない願いを呟く。すると遠くに何かがあるのが見える。銀色の板のようもの。近づくと正体が分かった。鏡だ。なんでこんな所にあるのだろう?何のために?そもそも誰が置いたのか?様々な疑問が思い浮かぶが、私は心底ガッカリした。鏡があった所でどうしようもないからだ。鏡には絶望した自分の顔が写っていた。しかし、次の瞬間である。突然鏡の中の自分が笑ったのである。とうとう、気でも触れてしまったのだろうか?こんな状況で笑うなんて。そんな事を思っていると、鏡から声が聞こえる。「お主助かりたいか?」私はフリーズする。幻聴だろうか、こんな状況だから不思議じゃない。しかし、この際そんな事どうでもいい。私は答える「助かりたい、助けてくれよ」すると「なら、お主の大事なもの1つ頂く」と返答がある。大事なもの?私には特に大事にしてるものなんてない。だが、この際助かるなら何でもいい。「分かった、譲るから助けてくれ」朦朧とした意識の中呟く。すると、「承知した」と鏡から聞こえた。その時、私の意識は途切れる。
目が覚めると、私は病院のベッドの上にいた。どうやら、運良く下山中の人に見つけてもらい、助かったとのこと。あの出来事は夢だったのだろうか?それにしては、妙に鮮明に覚えている。「まあ、いいか」私は考えることを止める。助かったなら何でもいい。そうして、ふと病室の鏡を確認すると、私は唖然とする。ない。「禿げてる、、」大事なもの、大事なものか。確かに大事なものだった。私は切ない思いで虚空に視線を向けた。
凍てつく鏡はまだ、あの場所にいるのだろうか?感謝と喪失感で私は病室の窓から遭難した山を見つめた。
12/27/2025, 12:18:24 PM