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星明かり:



人に揉まれて歩くのが嫌になって道を少し外れる。

行き交う人や車の音が遠ざかるにつれて呼吸が深くなる気がした。息をすることだけに集中して、頭を空にして歩く。

ふと視界が開けたかと思うと、いつの間にか公園に入っていたようだった。遊具などは特に見当たらないが、よく整備されているのが分かる。

近くにあったベンチに腰を下ろして見上げた空は夜だというのにどこか明るく、昼間の黒猫の毛並みが思い浮かんだ。くつろぐ猫よりずっと空虚ではあるが。

もし、この都市全体が停電に陥ったなら、いま見上げている空にはいくつの星が見えるだろうか。

たとえほんの少しの間だとしてもそんなことになれば多くの人が困ってしまうだろうし、その中には自分も含まれるだろう。それでもそんな非日常をどこかで思い描いてしまう。人前に出すことは憚られるが、これもある種の夢なのかもしれない。

何もない明るい空をぼんやりと眺めているうちに呼吸が整ってきた。そろそろ歩き出せそうだ。

この目に捉えられない星々の輝きに思いを馳せながら初めて歩く道は、なかなか悪くないような気がした。

4/20/2025, 12:00:16 PM