街の明かり(盲目を断ち切る)
最上階のラウンジから見える街の明かりは、格別に綺麗。
―――わたしはひとりカクテルを口にしながら、階下に広がる夜景を見下ろす。
つい先程までいた正面の席にはもう誰の姿もない。
記念日に呼び出されてご機嫌でお洒落をしてきた自分が何とも滑稽で仕方なかったが、彼が席を立ってすぐに自分もそうするには気まずくて―――半ば開き直ってこの眺めの良い場所を占領している。
記念日にこの仕打ち。
何がいけなかったのか反省に辿り着く以前に、このタイミングを見計らって切り出した彼の悪意に心底興醒めした。
周りからあの男だけは辞めておけと散々忠告されたにも拘らず、のめり込んだわたしがいけなかったのは重々承知している。
………男を見る目がない。
ただその一言に尽きた。
「―――嫌になっちゃう」
頰杖をついて、残りのカクテルを飲み干す。
少し酔ったのだろうか、目頭が熱くなったのを感じてわたしは頭を振った。
やめてやめて、誰かに見られて勘違いされたら困る。
そんな感傷に浸るほど傷ついてなんかいない。
―――途端に居た堪れなくなり、わたしは席を立った。
………街の明かりをこうしてロマンティックに誰かと見るのも素敵だけど、とりあえず目標としては、日の出ている明るい時にこの下の通りを歩けるデートを目指したい。
その為にはまず、今夜のことは綺麗さっぱり忘れよう。
そしてこのラウンジから見える街の明かりも、今日で一旦封印しよう。
未練など持たず潔く断ち切ってしまうのが大事だ。
そうして一掃して真っ新に戻ったら、今度こそ背伸びをしない真っ当な恋に出会えるだろう、と思った。
END.
7/9/2024, 7:06:17 AM