いぐあな

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300字小説

遺品の塔

 この大陸北端の岬には潮の流れで、海で亡くなった人の遺体や遺品が流れ着く。岬の魔法使いである、私の師匠は流れ着いた遺体を葬り、遺品を岬の塔に安置していた。
 高い塔に設えた棚に並ぶたくさんの遺品。
『こんなに集めてどうするのですか? 哀愁をそそるだけでしょう』
 以前、そう問うた私に師匠は苦笑しながら答えた。
『そうじゃない。そんなんじゃないんだよ。……いずれ君にも解るよ』

 師匠から岬の魔法使いを継いだ私の元に客人が訪れた。その男を岬の塔に案内する。棚を埋め尽くす遺品を見ていた男がナイフを見留め、握り締めた。
「……やっと会えたな……」
 肩を震わし泣く男。
 私は指にはめた師匠の形見の指輪を撫で、静かに塔を後にした。

お題「哀愁をそそる」

11/4/2023, 11:29:56 AM