路上ミュージシャンは引退を考えている。
別にデビューもしていないのだが、何年やっても観客はゼロだと、今更ながらに気付いてしまったからだ。
そうしてギターをしまおうとしたときに、ねずみが彼の前に現れた。彼にはそれが観客に見えた。
おまえのために歌ってやるか。
これが最後の歌だ、よく聴いておけよ。
路上ミュージシャンが歌い出すと、さらに観客が続々と。
うし、とら、うさぎ、龍、へび、うま、ひつじ、さる、とり。
最後に子猫がやってきた。
イノシシじゃないのかい。と思わず歌ってしまう。
子猫は、あなたのファンなんです、と言った。
あと12年は引退しないと彼が歌うと、観客たちは各々の鳴き声を上げた。
11/15/2022, 10:58:15 AM