「今日にさよなら」
半分くらい埋まってる社員食堂。
席の一つに腰をおろして、蕎麦をすする。
今日は少し食欲がない。
夕べ、あの人とちょっとケンカした。
僕が悪い。
ヤキモチをやいて、それでいろいろ言った。
あの人も今回は引かなかった。
あやまればよかったのに。
ちゃんとあやまらずに僕は家に帰った。
あの人、傷ついた顔してた。
今日は今日で、あの人、急な出張でいない。
戻るのは明日。
「どうしたの?元気ない?」
そんな声に顔をあげると、同じ部署の一年先輩の女子社員さんが前の席に座るところだった。
「そう見えますか、、、?」
「そうだねェ。
仕事は問題なくこなしてるみたいだけど、なんとなく心ここに在らず、、、みたいな感じ。
ケンカでもした?あの人と」
「え、あの人って、、、?」
なんてことないふりを装って答える。
「その胸ポケットのボールペンの元の持ち主さん」
僕が答えずにいると、少し肩をすくめてさらに続ける。
「私がたまたま気づいただけだよ」
暗に他の人は気づいていないと言いたいのだろう。
女の人は鋭い。
いや、この人が特別鋭いだけかもしれない。
「夕べ、ケンカしました」
知られてしまったのに、変な安心感。
この人にならいっか、、、な気分。
いや、気づいてるのはあの人の同期の人もだ。
「明日帰ってくるでしょ?」
「はい」
「うーん、、、そうだなー。
少し過ぎちゃったけど、バレンタインのチョコを渡しながらあやまっちゃうのは?
何かクッションがあるとあやまりやすいかも。
明日は明日の風が吹く。
なんとかなるって」
ね?と、覗きこむようにして、無言で頷いた僕に満足したのか、女子社員さんは席を立った。
そうだな。
明日は明日の風が吹く。
帰りにあの人が好きそうなチョコ買いに行くか。
あれで、意外に甘いモノ好きだし。
2/19/2024, 12:02:47 AM