『この種が芽吹いたら、我はまたここに来よう』
大地の精霊である彼がわたしに託したのは、この世界では絶滅してしまった花の種だった。
人と精霊が長くともにいては、災厄が起きる。それは、この荒れ果てた世界の歴史が証明している。
それでも、彼にもう一度会いたかった。
かろうじて残っていた記録を漁り、種を育てる土壌作りを始める。
適した場所、必要な肥料の比率、漉き返しの深さ、水の量と回数。
失敗して、失敗して。
挫けそうになったけれど、その度に、彼と寄り添い合って眺めた朝日を思い出した。
諦めなければ必ず朝は来る。
そう信じて、種を消費し、わたし自身の手にも皺が寄り始めた頃。
緑色の小さな芽が、土から顔を出した。
「本当にやり遂げるとは。君の執念には恐れ入るね」
背後から聞こえる、懐かしい声に振り向けば、彼があの頃と変わらない姿で微笑んでいた。
笑い泣きで彼に駆け寄る足が軽い。最近は息が切れて仕方なかったのに、疲れを感じない。
「君は天に認められた。これからは、共に大地の精霊として、世界を蘇らせよう」
わたしは彼に出会った頃の姿で、彼の胸に飛び込んでいた。
2025/03/01 芽吹きのとき
3/1/2025, 10:14:24 AM