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あなたとわたし

「だって似た者同士だろう、彼ら」
 そう言って野菜を洗う手を止めた男が示したのは厨の窓の外、鍬を担ぎ、木桶を手にして裏の畑に向かう二人組だった。
「それ、本人たちに言うと『全然似てない』って声を揃えて答えてくれるよ」
「自覚がないのかい」
「認識したくない、の方じゃないかな」
 大根の皮をするすると剥きながら答えて、それから首を傾げる。
「二人のどこが似てると思ったの?」
「どちらも自己と他者の境界線を明確に決めている」
 誰とでも笑顔で親しく接する男と、誰が相手であっても馴れ合いを拒絶する男。真逆のようでいて、誰に対しても態度を変えないと言う点においては同じだった。
 あなたとわたしは違うモノ。だからこそ、自ら定めた自他の境界線の先へは踏み込まないし、踏み込ませることもない。
「まあ、そうやって境界線をはっきり定めている割にずるずると引っ張られてしまうところまで含めて、だろうね」
「容赦がないなぁ」
 付き合いが長い分、まったく否定できずに苦笑してしまう。それが彼らの良いところだとフォローすれば、それはよく分かっているよと相手も眉尻を下げて笑った。
「そうやって引っ張られてしまう、相手の心に寄り添ってしまう自身の性質を──己の情の深さをわかっているからこそ、明確な境界線が必要なのだろう?」
「そっくりだよね」
「ああ、よく似ている」
 あなたとわたしは違うモノ。だからこそ相手の中に踏み込むのではなく、境界線上で相手に向かって手を差し出す。差し出された手を掴み取る。
 その距離感がよく似ている、互いの隣はきっと心地のよい場所なのだろうと思われた。

11/7/2023, 1:03:58 PM