『優越感、劣等感』
あたしの名前はモブ崎モブ子!
私立ヘンテコリン学園に通う高校一年生。
「はあ~」
モブ子は鏡の前で溜息をつきながら、
先日耳にした男子たちの会話を思い出していた。
「クラスで一番可愛い子は誰だと思う?」
「リディルちゃんだろ。この前消しゴム
拾ってくれたし、絶対俺に気がある」
リディルは純金と見まがうブロンドの髪と
サファイアのような青い瞳を持つ美少女で、
モブ子の友だちだ。
「メア・リースーは?」
「美人だけど性格がきつい」
メア・リースーは夜空を思わせる黒髪と
ガーネットのような赤い瞳を持つ美少女で、
モブ子のライバルだ。
「じゃあモブ崎は?」
自分の話題が出てドキッとするモブ子。
「んー、良くも悪くも普通」
「中の下?いや、中の中か」
は?なーに好き勝手言っちゃってんの!
その言葉が、
モブ子の胸に深く突き刺さった。
あたしにはリディルちゃんみたいな可愛いさも、
高飛車お嬢様みたいな美しさもない。
目がもっと大きかったらなあ。唇は
もっと小さく、顔のラインはしゅっとして。
あ、こんなところにホクロができてる。
一つ気になりだしたらキリがない。
中庭で落ち込んでいると、
学級委員が声をかけてきた。
「何か悩みでもあるのですか。
この学級委員に何でもご相談を」
モブ子は躊躇しながらも、自分の容姿に
ついてのコンプレックスを話した。
「ふむ、そんな貴方にピッタリの品がこちらに!
『魔法のアイシャドウ』。目元を大きく見せる
効果があります。試しに使ってみますか?」
学級委員が差し出した手鏡に映るは、
少女漫画のヒロインのようなキラキラおめ目。
「今なら半額です。この機会をお見逃しなく!」
「買います!」
それからモブ子はお小遣いをはたいて
美容品を買い漁り、毎朝メイクに
時間をかけ、髪型も変え、校則ギリギリの
スカート丈で学校に通った。
ある日、ドキドキしながら絶賛片思い中の
セバスチャン・フェンリル君に声をかけた。
「おはようフェンリル君!
あ、あのさ、いつもと違うのわかる?」
「?どこが変わったのかわからない」
がーん!!あたしの今までの努力は……。
「あら、モブ崎さん。ごきげんよう。
魔術師から事情は聞きましたわ」
項垂れるモブ子に高飛車お嬢様が
声をかけてきた。
「モブ崎さん、私とあの子は神が丹精込めて
作った至高の芸術作品ですから、
いちいち比べていたら身が持ちませんわよ」
優越感をひけらかすように
胸を張る高飛車お嬢様。
はえ~、ここまで来るとむしろ清々しい。
その夜、モブ子は自分の素顔を見つめ直した。
他人と比較する事の無意味さ、虚しさを痛感した
彼女は、過度な美しさへの執着をやめ、
心身共に鍛えることにしたのであった。
7/13/2024, 8:00:07 PM