いろ

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【朝日の温もり】

 身を丸めて眠っていた洞窟の中で、ふと目を覚ました。薄暗い夜の闇が、仄白く染まっている。もうすぐ夜明けだ。
 身体を起こして見渡しても、貴方がいない。慌てて外に飛び出せば、ゴツゴツとした岩肌に腰掛けた貴方が驚いたように私を振り返った。ああ、良かった。ちゃんと此処にいてくれた。そのことに心の中で安堵の息を漏らした。
 己の死をとうに受け入れていた貴方の手を引いて、衛兵たちから逃げることを選んだのは私だ。貴方を死なせたくない。それが私の我儘に過ぎないのだとは知っていて、それでもどうしても譲れなかった。
「ごめん、起こしたかな?」
「ううん、大丈夫だよ。貴方こそこんな早くにどうしたの?」
 貴方の隣にそっと腰を下ろす。夜明け前の冷えた空気に少しだけ身を震わせれば、肩に貴方の外套がかけられた。
「ごめんね、僕のせいで」
 無関係な私を巻き込んでしまったと、きっと優しい貴方は悔いている。本当にバカな人。香り高い紅茶も美しい薔薇園も、隣に貴方がいなければ私にとっては何の価値もないのに。
「謝らないで。私が貴方と一緒に生きたかった、それだけなんだから」
 東の空が明るく輝く。地平線に太陽の丸みが姿を現す。紫色に染まった空が、徐々に鮮やかな橙へとその色を変えていく。
 王都の屋敷に留まっていたならば、貴方と共にこんな雄大な景色を見ることはきっとなかった。だから私は絶対に、私の選択を後悔しない。
 朝日の眩い光が、隣同士に並んだ私たちを照らし出す。その温もりに身を委ねながら、私は貴方の傷だらけの手をそっと包み込んだ。

6/10/2023, 1:52:40 AM