鍋嶋牡蠣

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暗く深い海へと。
砂浜。
ゆらゆらと揺れる端切れの波。
足を波が触れる。
端切れのくせにゆったり楽しむように何度も波を踊らせる。
私はそんな気分じゃないのに、こっちへおいでと呼ばれてしまう。
ざりざりと砂に埋もれて温められた足がふいに波に触る。
冷たい。端切れで、冷たいお前は出来損ないだろう。
どうしてそんなに楽しそうでいられるんだと無性に腹が立った。
私は声を喉から射るように出して、海に向かっていった。
暗い黒い暗い海は、私が叫べば叫ぶほど、嘲笑うように声を高くした。
とうとう私の足は砂を捉えられなくなり、体は海の腹に放り出される。
私は出来損ないかもしれない。
でも海だって出来損ないだ。
何が違うんだ。
私と海。
海。
海。
暗い。
意識が。
海。

8/23/2024, 4:29:55 PM