「うん、僕は絶対に泣かないよ。だって、僕の大切な人と約束したことだから」
高校に入学したての四月。そう言って、キミは笑う。痛切に感じるほどに。殴り合いの喧嘩をしていたオレを救ってくれた救世主。それと引き換えに全身はアザだらけ。オレと一緒だ。それなのにどうして微笑むことができるんだ。本当に不思議だった。真っ白な天井を見つめたあと、またキミを捉えて口を開いた。
「そっか、ありが、と。こんなオレを、助けてくれて。病院まで運んでくれて。あと花も」
「当たり前のことだよ。だって中学生の時――いや、なんでもない。じゃあ僕は、そろそろ行くね。また明日来るよ」
「あぁ、気をつけて」
個室から出て一呼吸。彼の前では耐えることができた。彼の前では。とめどなく溢れてくる涙とともに、何とか歩を進めた。最悪の高校デビューだった。まだ続いていた。あいつらの悪さは。
中学上がりたての頃に、あいつらは話していた。ちょっと憂さ晴らしさせろ、って。それが全ての始まり。なんの関わりもない僕が標的にされて、散々嫌なことをさせられた。そんな時に助けてくれたのは君だったのに。転校してきた君だったのに。言ってくれたじゃんか、『こういうこと、見て見ぬふりできない。オマエは笑っている方が一番似合ってる。これからも太陽みたいな明るい笑顔で、他の人のこと照らしていけよ。オレのこともな。これ、約束な』って。そんな勇気ある行動に、温かい優しさに強く心を惹かれた。
(それから、移り変わって彼に……)
僕と同じようなことをされていた。「やめて」って言いたかった。あの時、臆病になって見ているだけだった自分が憎い。高校生になってからは大丈夫だと思っていた。でも、そんなことは無かった。再び同じ光景が目に入った時、僕の身体は勝手に動いていたんだ。
(でも、前のような彼は、いない)
思わず足を止めて、近くの壁にもたれ掛かる。爪が食い込むほど強く拳を握った。覇気がなくなり、弱々しくなってしまった君。僕のことも記憶から抜け落ちているのだろう。あの出来事のせいで。さっきの姿、言動を思い出す度心臓が締め付けられて、苦しくなる。
早く、早く思い出してほしい。それまでずっと僕がそばにいるから。支えていくから。
そう切に願いながら、また僕は歩き出した。君が戻ってきた時、この胸に秘めている想いも、伝えたいから……
~泣かないよ~
3/18/2024, 1:03:38 AM