かばやきうなぎ

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時間よ止まれ


鏡よ鏡よ鏡さん
世界で一番美しいのはだぁれ。


いつから白雪姫より継母に同情するようになったのか。
若々しく艶やかだった髪に朽ちるように白いものが混じるようになった。
瑞々しかった肌は枯れて、目尻には皺が目立つ。
頬に浮き出たシミは肝斑だろうか。

どんなに高級な美容液も時の流れには敵わない。
祈るように頬を撫でる手は明確に老いを示していた。

悔しい。
あんなにも誇らしかった美しさが鏡の中の自分に見えない。目も口元も髪も指先も。
美しさというステータスがなくなって仕舞えば私に一体何が残るの。
時間が戻るというならば全てを差し出してもいいだろう。艶やかな髪に戻る事を願って積み上げた努力は泡沫の泡のように形にならずに水の泡と消えた。

ツカツカと戻ったキッチンの先には整形外科の広告。
昨日二重にしたいと娘が持ってきたものだった。
可愛ければなんとでもなるのに、そう言った娘の姿に
かつての自分の姿が重なる。

二重にしても歯を矯正しても顔を変えても老いには敵わない。今しか見えない人間に重ねた年月の後の事など考えられない。そんな自分の愚かさを突きつけられている気持ちになった。

人は白雪姫ではいられない。
必ず貴方も鏡を前に過去を妬む日が来るの。

時間が止まれば良いけれど
そんなの絶対ないんだから。

そう言っていた母の言葉を聞く耳がなかった自分は娘に何をしてやれる?

鏡よ鏡よ教えてほしい。
私に何が出来たというの。

手に持ったチラシをぐしゃぐしゃにして苛立ちと共にゴミ箱に捨てた。

2/16/2025, 10:59:24 PM