今日はつくづくついていない。筆箱を家に忘れ、提出のプリントは存在丸ごと忘れていてほぼ白紙。先生に当てられた時だって、よりにもよって唯一分かっていない問題の時。何もかもが敵に思えて、本日何度目かも分からない溜息が溢れた。
「どしたの、元気ないね。」
ひょこ、と俺の後ろから、購買のコーヒー牛乳を咥えた友人が顔を出した。軽薄そうな物言いながら、その裏にはじんわりとした心配の色が滲んでいる。
「なんでもねー。今日ツイてないから萎えてるだけ。」
少し拗ねたような声で言うと、彼はにまりと、しかし安心したように笑った。ツンデレで甘えん坊な猫のような目が俺を見つめ、放課後の夕日を受ける瞳はうるりと光を湛えている。
「なーんだ。心配して損したじゃん!不運なんて僕と遊んだら一瞬で忘れるでしょ?……ってことで、ゲーセン行こ?」
コイツ、初めからこれが目的だったようだ。以前コイツにゲーセンのメダルを掏られてから、もう二度とコイツとは行かないと決めた。が、今日くらいはいいだろう。へこんだ気持ちを持ち直すのにも、きっとあの喧しさは丁度いい。
「……いーよ。行く。」
彼は更に笑みを深めて、ガタガタと騒がしく鞄を俺に押し付けてきた。
「決まり!早く行こ!ほら早く!」
ぐいぐいと背中を押され、若干よろめきながら教室を後にする。夕焼けの茜色に満ちた帰り道は、朝よりもずっと明るく、眩しかった。相槌も打っていないのに隣で延々喋る彼の声も、丁度いい気晴らしの一端を担っているようだ。
「ねー、今日何の台やんの?どんくらいメダル増やせるか勝負しよ!今日お前不運だし絶対負けない気がする!」
都合の良い勝負を仕掛けてくるのもいつも通りだ。毎回俺が勝っているのに、何故かコイツはずっと懲りずに勝負を挑んでくる。構ってほしい内心が丸見えだが、それを言ってしまうと二度と勝負に誘ってはくれなくなる気がしたので言っていない。
「……ぜってー今日も勝つからな。負けたらジュース奢れ。」
彼を突き放すように言うが、口元の笑みは隠せない。彼は喜色満面といった様子で、にぱりと笑った。
「どーせまた苺ミルクでしょ?けっこー子供舌だよね。」
「うるせ。」
べし、と背中を叩く。文句を言ってくる唇も、気付けば三日月型に弧を描いていた。俺達の放課後は、まだまだ序章に過ぎない。
この後、メダルはしっかり掏られたし、勝負にはきっかり勝って苺ミルクは奢らせた。なんだかんだ、そこまで不運でもなかった、気がした。
テーマ:スマイル
2/9/2026, 8:04:10 AM