ありす。

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「学生時代に頑張ったことは」

と、聞かれて真っ先に思い付いたのは、早起き、睡魔と戦った授業中、家でのテスト勉強、先生のつまらない話し。

思い付いたことを目の前にいる面接官に話せば、嫌な顔をされた。
一緒に面接を受けている他の人たちも気まずそうな面持ちで、僕を見ていた。

1人だけある人物を除けばだ。

「きみは…学生時代に頑張ったことは?」

面接官が隣にいる親友に同じ質問を投げかけた。

「部活です」

「部活!どんな事を主に頑張ったのですか?」

親友はいつもと変わらずニヤリと口角をあげて声高らかに言う。

「早起きです。朝の練習が早くて…。朝が早いと授業中に睡魔が襲って来て頑張って起きてて…あとテストで赤点取れば、練習試合や合宿に参加出来ないから家でのテスト勉強もしました!あっ!先生の話しで練習時間少なくなるのでいかに早く終わらせれるのか試行錯誤を……」

「もう大丈夫です」

面接官の聞き飽きたという表情に僕は、またかとため息が出た。
この瞬間に僕は悟る。

あっ、この面接不合格だな…と。

まだ言い足りなかったのか親友の怪訝そうな顔だけが隣にあった。
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僕とこのおかしな親友は幼なじみだ。
いつから隣にいるのかはもう覚えていない。
気付けば隣にいて、家でも学校でもいつも一緒にいた。

「知ってるか!宇宙の謎の解き方!」

「知らない」

「だよなぁ〜!俺も知らない!」

こいつを表す言葉は決まっている。
脳天気なお気楽バカ。

「なぁなぁー!カタカナを平仮名にすると可愛いよなぁ」

「どういうこと?」

「プリンだとぷりん。ほら可愛いじゃん」

流行りものよりも自分が好きだと思った物に惹かれる変な体質。

「あの子…変じゃない?」

「隣の席とか…嫌なんだけど」

周りからの評価も微妙で、置いてけぼりにされるのはいつもの事。

「今年こそは脱色!いざ、行かん!我らの聖地!」

「脱色?聖地?」

「今年こそは、弱小校っていうレッテルから離れたいの!だから脱色!聖地は…そう思わないと緊張で死んじゃう…うううっ!!と、トイレ!」

運が良かったのは通っていた学校のたまたま入った部活が弱小だったこと。
周りも楽しく部活をしており、僕や親友の事を悪く言うやつもいなければそもそも幽霊部員の方が多かった。

「ねぇ、俺たちの3年間終わった?部活は?もう行かないの?」

「俺たちの3年間は終わった。3年連続一勝も出来ないままな」

僕がそういうと親友は「そっか」と物足りないなさそうに言うだけだった。

人生100年時代と言われるこの世の中では、僕と親友の青春の3年間はちょっぴり苦々しかったのかもしれない。
ドラマやアニメ、小説で見るような青春は今考えれば何ひとつしていなかったのだから。
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面接からの帰り道。
第1希望は落ちたなと先程の面接が何度も頭を過ぎる。
隣には、コンビニで買ったチキンを食べながら何もダメージを受けて無さそうな親友がスキップをしていた。

「なんで同じところ…受けたんだよ」

「よくぞ聞いてくれた!俺らはユスリカだ!ユスリカは光ある場所に集まるもんだろ!」

「なに…ユスリカって何かのゲームの名前?RPG系?」

「いや、虫の名前」

今さら「聞いた僕が馬鹿」だったなんて定型文を並べることはしないし言わない。今さらだからだ。

「面接でなんであんな事言ったんだよ。部活なんてそんなにがんばってなかったろ?」

「うん。部活は頑張ったことなかったよ。俺たちは何をしたって凡人!普通に楽しむくらいでちょうどいいよ!本気になるのは来世で才能に恵まれたら…その時は本気になるよ」

「じゃ、なんで…」

「だってお前が頑張った事を嫌な顔して聞いてたんだよ!おかしいよ!」

面接の練習は学校で何度もしていた。
でも、実際に本番になれば学生時代に頑張った事などない。という事に気付かされた。

「いや、面接官や他の人たちの反応は正しいさ。だって普通に僕はおかしい事を言ったんだし」

「違う!おかしくなんかない!それにお前があんなに喋ったところ初めて見た!ずっと一緒にいる俺がだよ!お前…凄く頑張ったんだなって…それをあいつら嫌な顔してたんだよ。だから俺が代弁してやった!」

どうやら親友は僕のために言ったようだ。

「いや、ありえないだろ。普通」

「そんなことないって…それに普通ってなんなのさ!」

「普通は普通だよ。常識というのかな」

いつの間にかチキンを食べ終わった親友が僕の目の前で立ち止まる。
僕よりも10センチ高いその身長に若干の羨ましさを覚えたのは最近のようで懐かしい記憶だ。

「俺たちはこれからも友達だから」

「あっ、うん。はい。そうですね」

「だから、無理しなくていい。喋るの得意じゃないのに…面接で喋ってそれで受かったってその後は?絶対にキツいって」

「えっ…」

「何年幼なじみで親友してると思ってるだよ」

親友は得意げそう言った。

「さてと…次はどこ受けるよ」

「えっ!また一緒のところ受けるの?」

「当たり前だろ!就職とかよく分からないし!」

「はっ…?!本当におかしいだろ…」

僕とこのおかしな親友は幼なじみだ。
そしてこの関係はこれからも、ずっとそうなのだろう。

4/8/2024, 12:44:57 PM