作家志望の高校生

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ケバいネオンと汚い喧噪に塗れたスラム街。そこが俺達のアジトだ。一本路地裏に入ればお楽しみ中のおっさんと少女に出会い、もう一本入れば死体が転がっている。そんな地域である。
そんな所に住んでいる俺達も、当然普通ではいられない。ここでは、常識とは枷であり、正義はゴミも同然である。何をしようと、やられた奴が悪い。強さは絶対的正義で、弱さは悪。踏み躙られ、好き勝手されたって仕方ない。だから、俺達は強くなった。俺とアイツの名を知らない奴は、このスラム内にはいない。そのくらい強くなったのだ。
元々俺は、ここの出じゃない。元は、スラムより上の地域、普通の世界で暮らしていた。警察雇いのホワイトハッカーとして、難事件をいくつも解決した。
しかし、奴らは俺をいとも容易く切り捨てた。あるサイバー犯罪が起きた時、真っ先に疑われたのは俺達ホワイトハッカーだった。ありとあらゆるシステムの管理状況、パスワード、侵入路からセキュリティまで全て知り尽くしていたことが仇となって、俺は正義から一転、使い捨てられた悪となった。
そのままスラムに流れ着いて出会ったのが、彼だ。彼は元々このスラムで生まれ育ったらしく、言葉も粗雑で知識もない。しかし、馬鹿ではなかった。彼は生きるために、外から流れ着きいかにも怪しかった俺の頭脳を見抜いて近付き、今では相棒の座に登りつめた。このスラムで生き延びていけるような喧嘩の強さは、頭脳戦を得意とする俺と相性がよかった。
今日も2人、格安の狭いボロアパートに身を寄せ合う。ここにある一番高いものは、きっと俺が唯一外から持ち込んだパソコンだろう。このアパートより、俺達の人権や体より、パソコンの方が高いのだ。
少し身動ぎをするだけで軋んで嫌な音を立てるソファの上、2人ぎゅうぎゅう詰めになって座る。俺達はもう大の大人、それもそれなりに身長も高く体格もいい男なので、狭くて仕方ない。
横で煙草を吹かす彼を横目に、ブラックハッカーへと堕ちた俺は、かつての同僚と電子上で対峙している。しかし、誰より長くホワイトハッカーとして勤め、誰よりそのシステムを理解している俺に勝てる者はいなかった。
外では、銃声やら悲鳴やら罵声やら、物騒な音が絶え間なく聞こえている。ぼすりとソファに沈み込んだ俺は、なんとなくで隣に座る彼の肩に頭を預け、2人で元の世界で、普通の世界で暮らせたら、なんて夢を見る。
随分古びて脚の欠けた机の上には、元の世界をなぞるように、せめてこの部屋の中だけでもこの夢を見続けられるように、俺の知っている普通をなぞったような小物の数々が並んでいた。

テーマ:夢の断片

11/22/2025, 6:31:47 AM