ゆいに

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星の出ている夜でした
息が白い夜でした

両手にゴミ袋を引っ提げて、なだらかなAラインを描くシルエットは星を見上げて、月を見上げて言いました

「こんなに地球が壊れてるってのに、星はまだ見えるもんだねえ」

「そりゃ地球が壊れても、星は遠くで関係なしに輝くからね」俺が言うと

「他人顔した星達だな」

『高潔にも見える』

と一人頷いていました。

横顔にある種の幼さがどうしても引き剥がされずに残っていたことを覚えています。

冬は毎年の様に清廉で、彼は冬が好きで夏が嫌いだと言っていました。「モノが腐るので嫌いだと」

冬の間だけ俺と彼の間にある空気は清廉で、においを、粒子を間に挟まず、ソリッドで互いに自分だけで立っている様に錯覚していた。


今年の夏は彼の背中を見送る。

彼と俺の間の空気に何が含まれていたのか知りません。
ただ外れたAラインに、俺はどこかで梯子の様にもたれかかっていたのかもしれない。

空気が、傾くのです。

あれから、世界が片方だけ斜めに傾くのです。


「あいつは馬鹿だね、何もしなくても人間が死ねば地球なんて百年で元通りになるのに」

発狂したテロリスト。正気のままに醒めて踊る。知りつつ間違うハムレット。

彼と俺の間には、本当に媒介する空気があったのでしょうか。
だって今更くらいに何も知らない。

10/5/2023, 9:23:56 PM