無気力

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「ねえ、私の大切なものになってよ」
そう言って僕の顔を覗き込む。
怖いくらい整った顔の彼女の表情から気持ちを読み取る事ができない。
大きく茶色がかった瞳に吸い込まれていく。
彼女が白く細長い手を僕の首元へ伸ばす。
僕は時が止まったように動けない。
彼女の指先が僕の喉に触れる。

「時間です」
そう言って入ってきた女性は、一直線に彼女の腕を掴み部屋から連れ出す。
彼女の顔は僕の方を向いたまま、表情は変わらない。
扉が閉まる瞬間、彼女は微笑を浮かべていた。

バタンと扉の閉じる音をきっかけに体の緊張がとれる。
わずかに触れた彼女の指先は冷たかった。
なのに触れられた部分から熱が広がる。
僕も部屋をあとにする。
この熱はきっと風邪の前兆だろう。そうでなくてはいけない。
彼女は…
心臓が締めつけられるようだ。

『微熱』

11/26/2022, 1:49:37 PM