かたいなか

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「沈む夕陽」なるタイトルの曲があるそうです。
なんだか今週金曜日に、劇場から聞こえてきそうな気がしないでもない響きです。
赤い蝶ネクタイに青いジャケットの少年が、遠くからゆっくり近づいてきそうな旋律です。

とはいえ今回のお題は「沈む夕『日』」ですので、
夕日のおはなしを始めましょう。

最近最近の都内某所、某ビルの屋上庭園で、
花を見るでもなく、鳥を見るでもなく、
沈む夕日を虚無目で追尾してる野郎がおりまして、
野郎は「ここ」ではないどこか、別の世界から来た別世界人。
ビジネスネームをスギという、世界多様性機構なる厨二ふぁんたじー組織の構成員でした。

別世界人のスギが東京の、沈む夕日を見ながら、
思うところがあって、黄昏れています。
スギが勤めている別世界由来の組織は、カネが無いのです。万年財政難なのです。

今日も今日とて東京の、現地人を相手に先進世界の技術でもって、暴利をむさぼって、
スギが担当している施設「領事館」の経営を、少しでも安定させようと思っておったのに、
なんということでしょう、ツメが甘いせいで大爆死。赤字を出してしまったのでした。

沈む夕日は、何も言いません。
ただただスギが虚無目でもって、黄昏のそれを観察するだけでありました。

同じ最近最近の都内某所、同じビルの屋上庭園で、
花を見るでもなく、鳥を見るでもなく、
沈む夕日を充足感とともに見ておる野郎がいます。
野郎も「ここ」ではないどこか、別の世界から来た別世界人。
ビジネスネームをカモという、世界線管理局なる厨二ふぁんたじー組織の局員でした。

そうです。前回投稿分に出てきた例の野郎です。
細かいことは面倒なので、気にしてはなりません。

別世界人のカモが東京の、沈む夕日を見ながら、
その日に成し遂げた仕事の充足感に包まれながら、黄昏れています。
カモは前回投稿分で、ドチャクソに忙しい喫茶店での業務を、見事に乗り切ったのでした。
予約整理、注文対応、料理提供にテーブル掃除。
カモに期待されていた以上を、カモはカモの全力でもって、成し遂げたのでした。

沈む夕日は、何も言いません。
ただただカモは心地良い疲労とともに、黄昏のそれを観察するだけでありました。

ところでこのカモなる野郎
実は管理局に入局する前の職場は
スギと一緒の多様性機構、そのスパイ部門。
当時はネギなるビジネスネームを使ってまして。

「ネギじゃねえか!久しぶりだな」
「久しぶりです、スギさん。まさかここでバッタリ会うなんて。奇遇ですね」

「……おまえ、敬語だったっけ?」
「おっと失礼。向こうで敬語を使ってるもので。ついつい出てしまった」
「あー。管理局のな。把握把握」

昔々、去年の頃に管理局にネギが忍び込んで、破壊任務をしておったところ、
管理局にバレまして、局内で負傷しまして、
その負傷したネギを敵にもかかわらず、かくまって、傷を癒してくれたのが、
収蔵部の局員のドワーフホト、すなわち現在カモが忠誠を誓っておるお嬢さんだったのです。

要するにカモは現在、管理局に完全に寝返った、機構の二重スパイなのです。

「そっち、どうです?」
沈む夕日に照らされて、黄昏れるカモが言います。
「知ってるだろ。資金難で、てんてこ舞いだよ」
沈む夕日に照らされて、黄昏れるスギが答えます。

「機構、カネ無いですものね」
「機構はカネが無いんだよ」
「しかも領事館、ゲートの不具合でしたっけ?」
「そうそう。去年の夏から。おかげで機構本部と連絡できねぇし、俺のとこまで予算が来ない」

「なんなんでしょうね」
「なんなんだろうなぁ……」

ハァ。 ふたりは一緒に、ため息を吐きます。
沈む夕日は相変わらず、なにも、言わないのです。

「聞くかぁ?俺の領事館とこの近況」
「話してラクになるなら、付き合いますよ……」

4/8/2026, 3:34:10 AM