かたいなか

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「『昼寝から』目が覚めるとなのか、
『背後の男に頭を叩かれてから』目が覚めるとか。
『恋』とか『催眠術』とか、『激昂』とかから目が覚めるハナシも、可能っちゃ可能よな。
……『目覚めると破産』?なんだソレ?」

で、目が覚めてから何するの、目覚めると何が発生してたのって所まで想定するのは苦労だが、まぁまぁ、自由度高めのお題は何にせよ、ありがたいわな。
某所在住物書きはニュースと防災系アプリで豪雨災害の情報を追いながら、ポテチをかじっていた。
緊急エリアメールで目が覚めるとか、不安しかあるまい。防災グッズの確認はしておこうと思った。

「『病室で』とか、『知らない部屋で』とか。場所もアレンジ可能っちゃ可能だな」
アイディアは出てくるけど、じゃあ自分自身納得できるハナシを書けるかっていうと、別なわけで。物書きはため息を吐き、今日も苦悩して葛藤している。

――――――

そこそこ前の先日、在宅ワークの昼寝中、もとい休憩中に、バチクソおっかない経験をした。
窓ガラスのヒビ割れる音で目が覚めるという温度差ドッキリ。例のアレだ。
東京はその日酷く暑くて、私のアパートのベランダの窓は勿論ワイヤー入りに統一されてて、
パン、っていう、乾いた音だった。

せっかく日頃の寝不足を解消できると思って、タイマーかけてエアコンつけて、通気性の高い女性向けの甚平に着替えて、ちょっとアロマも灯して、
さぁ寝よう、って寝て、すっごく幸福にうとうとして、ドチャクソにヘキヘキでヤッターな夢を、
4K8Kもビックリな高精細で見てたら、
すごく良いところで、パン。

たまたまウチのアパートの管理人さんが
『部屋の一定数で窓がヒビ割れしたら、業者に一括発注かけて激安で全部の部屋の窓ガラス交換するわ。自分で金出さずに管理人に一旦連絡してね』
って事前アナウンスしてたから、
管理人さんにラインして、すぐ「おけ把握」って返信が来て、私が最後の「一定数」だったらしい。
アパート利用者のグルチャに、都合良い日教えてって管理人さんから一斉送信がかかった。

やっぱり、まとめ買い。
まとめ買いが全部解決してくれるんだね。
ってことを、目が覚めるとほぼ同時に、考えた。

今日は、私の階の部屋の窓ガラスが、一斉に寒暖差とヒビ割れに強いやつに交換される日。
私の部屋は午前中で交換してもらう日程。
どれだけ遅くなっても私が帰宅するまでには終わってる、との説明だった。
まとめ買いって正義(大事二度の気付き)

ってハナシを今日の職場の昼休憩で雑談の話題にしたら、今年の3月から一緒に仕事してる付烏月さん、ツウキさんってひとが食いついた。
「そういや俺ひとつ気になってるんだけど。
雪国の窓ガラス、特に北海道とか青森とか、寒いところのガラスって、どうなってるんだろ」

「どゆこと?」
「東京の夏は、36℃とか39℃とかの快晴にエアコンで室温10℃くらい下げて、割れるじゃん。
寒いとこの冬は、マイナス2桁とかの吹雪にエアコンで室温20℃以上にして、多分割れないじゃん。
……何が違うんだろうな、っていう」
「東京は暑くて北海道は寒いじゃん」
「そりゃそうだけどさ。何か特別な窓ガラスでも、使ってるのかなっていう。もしそうならそのガラス東京に持ってくれば、安泰かなって俺、思って」

「雪国って言ったら、藤森先輩が雪国出身じゃん。個チャで聞いてみたら?」
「多分今聞いたら、藤森、徹夜明けで仮眠中」
「『徹夜』?」
「何かのフォローだって。仮眠中にいきなりチャットで起こされて、目が覚めると『お宅の実家の窓ガラスのこと教えて』ってどういう状況っていう」
「うん『寝かせて』って思う」

なんだろね、 なんなんだろね。
特に重要な意味も意義も持たないお昼の雑談は、
ガタン!
支店長の席の方からした突発的な音で緊急停止。
目を向けると単純に自分の席で昼寝してた支店長が、というか支店長の足が、膝が、
ビクってなってデスクの引き出しに当たって、
容赦無い痛さで目が覚めると同時に、膝を押さえてうずくまって、ご愁傷様に悶絶してました、
っていうだけのハナシだった。

支店長を見て、付烏月さんと数秒だけ顔を見合わせて、また支店長を見る。
「ところで明日のお誘いなんだけどね」
特に憐れむでも、フォローするでも、何か気遣うでもなく、私達は次の無意味無意義な雑談に戻った。

7/11/2024, 4:09:52 AM