ありす

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【目が覚めるまでに】

〈産業革命、イギリスの話。〉

朝、まだ夜が明けたばかりで空の色にオレンジ色や紺色がまじっているとき。
私の1番好きな時間。
それに、このときは昼間に飛び交う大きな罵声も、夜の絡みつくような得体の知れない、ちょっと気持ち悪い視線がないから。

そして何より、優しいひかりに照らされて、私たちの住む街ーというより“棲家”の疲れたみたいな壁のひび割れや、昔にこぼした工場の薬の跡がきれいな模様みたいに見えてくる。

『今だけは私が1番偉いのよ。』

帰って来たらいっつも“ジン”っていうお酒を飲む大人たちはまだぐっすりと眠っているから。

日よけの帽子のヴェールと、長いエプロンとワンピースは朝に着る清楚なドレス。

憧れのお姫様になった気分で、薄茶色レンガの上を光に包まれながら跳ね歩いて、大きな灰色の機織り工場までの路を行く。

街が目を覚ますまで。
毎日の、私の日課。

目を覚ましていても、夢をみる。



8/4/2023, 7:36:08 AM