どうしたの?
いや、まあ、今日も1日平和やったな~って。
なにそれ。
そうやって君は、ハハハと笑う。
そう言えばさっきさー、みさきがさー―
そうやって君は、僕の前で他人の話をする。
ねぇ、聞いてる?
聞いてるよ、それで?
ウ~ン、何話したっけ?
忘れちゃったの?こんな短時間で?
いま、アホや思ったでしょ?あおいはすぐに顔にでるからなー
ほら、また笑った。やっぱだめだわ。撫で上げたくなる、その少し癖っ毛な黒髪。
もう、みんな帰っちゃったねー、やっぱ人気がなくなると冷たくなるよね。
静まりかえった教室には、オレとこいつ以外誰もいない。校庭では野球部が相手校との試合で盛り上がっている。今年の夏はとにかく熱い、全国的に例年の記録を大きく上回る可能性があるらしい。こうして、教室の窓辺で涼もうとしてもかえって熱気と陽射しがからだの内側から汗で直ぐにワイシャツをダメにする。
フンフーンフフンフーン
吸収物がない分ななみの鼻歌はよく響く。僕もそのメロディーに肩を踊らす。
外には聞こえない僕らだけの秘密の音楽会。
蝉しぐれと試合の声援がちょうどいい塩梅で透明な防音室、もう何も気にしたくない。
まだ夏は始まったばかりなのに、ピークさながらのこの瞬間は、もうこれ以上これ以降に期待できないし、期待したくない。
そしてもう少しで終わってしまう、この音楽室、涼しく軽やかなメロディーが、僕のからだを内側から満たしていく。
あめのみ
8/12/2023, 2:01:20 PM