イオリ

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落下

 3階のベランダに出て委員長が出てくるのを待った。

 才色兼備の委員長は、小さい子供の頃から雨粒のように告白を浴びてきた。それらを完全拒絶するために、いつしか半天球のバリアを構築した。以来、彼女に告白しようとする者はいない。

 だが、それも昨日までの話。

 間もなくして、委員長の姿が現れた。歩く姿も可憐だ。

 僕は用意していた1輪の薔薇を手に、意を決して飛び降りた。

 僕ひとりの力じゃ無理でも、落下の勢いを利用すれば。あの無敵バリアも破れるはず。

 真っ逆さまに落ちていく。体で落下の速さを感じたが、逆に意識の方はスローモーションになった気がした。輝く黒髪、上品な後ろ姿。はっきりと見える。もちろんバリアも。

 拳を握り力を込める。絶対に破ってみせる。

 スーパーパンチ。赤く輝く拳がバリアに届く寸前、もう一方の手で持っていた薔薇の花びらが、空気抵抗に耐えられず散り散りに飛んでいってしまった。

 あっ、と花びらに気を取られて、ヒッティングポイントがずれてしまい、拳はバリアの球面を舐めて終わってしまった。

 僕は勢いのままバリアに激突。その場で気を失ってしまった。

 委員長はそんなことなど露知らず、優雅な足取りで離れていく。


 あーあ、薔薇は余計だったな。次は箱入りのドーナツにしよう。これなら大丈夫。

 

 

6/18/2024, 10:41:36 PM