「理想ぉ〜?そんなのの聞かないでくれる〜?
私は今は生きてるから〜。なんちゃってぇ〜」
目の前のパソコンに向う女は猫のように背伸びをした。昔から語尾を伸ばす癖がある。
七条四花。その女は優秀である。
洒落喰一族特殊部隊「空亡」の第八部隊オペレーター兼エンジニア総督として、優秀な成績を収め 第八部隊隊長の右腕としても優秀。
また、存在だけで泥沼関係を作り出すほどの美貌を持っていた。
第八部隊でのあだ名は「初恋キラー」「イケメンほいほい」と、彼女を褒め称えるものである。
八部隊の紅一点として務める四花は、完璧人間と言えるべき存在であった。
「隊長から、」
俺は四花に数枚が束になったプリントを手渡した。
「夜間における陣形の見直しおよび再編成、今週一週間の役割日程表、あと、昨日の任務の報告書の三点でーす。」
「隊長も急に来たなぁ〜」
「俺が貯めた」
「やめてよ〜まとめるの私なんだからぁ〜」
上からのプリントの説明を聞いた後、四花はいやいや受け取った。
「雑談でもしに来たと思ったんだけどな〜」
「えっなんで?」
キョトンとした俺の顔を見て四花は笑った。
「いきなり来て早々、好きなタイプを教えてくれなんて聞くから、あっこいつ暇なんだなと思うじゃなぁ〜い。」
四花はいたずらっ子のような目付きで、俺をからかって言った。
「別に気になっただけだよ。先月入ってきた新入りが、お前のタイプを気になっているようでな」
俺は苦笑した。
「やっぱ私、美人だからねぇ〜」
「自覚あったんかい。」
「ここまでくれば、嫌でもわかるさ〜。それに、私の血縁者は全員美人だ。親に感謝だねぇ〜」
四花は呆れたように乾いた笑みを見せた。
その表情から、美人、美人という言葉には聞き飽きてきたのだろうと察せた。
いっそのこと、ナルシストのように言ってしまった方が、案外人間関係築きやすいとでも思ったのだろうか。
ただただ嫉妬を招くだけだと言ってやりたい。
「あー、あと。」
四花は思い出したように呟いた。
「名前を聞く時は自分から名乗るように、タイプを聞く時は、自分から名乗った方がいいぞ」
「君の理想の人は何かねぇ〜?」
やり返したぞと言わんばかりに、プリント類から目を離し、俺の方に視線を向けた。
俺のような奴がどうして四花のような美人と冗談を言い合ったりする仲にになれるのか。
俺のような奴がどうして四花と幼なじみでいられるのか。
それはただの運であり、神様が与えてくれた感謝すべきプレゼント。
だが、この関係が運であったとしても
「お前かな」なんて、返すことはできなかった。
お題「理想のあなた」
5/20/2024, 10:53:31 AM