花の名前を知りたいと思ったのは、初めてだった。
花屋の店先に並んだ、色とりどりの花。
その中に、一際目を引く花があった。
大輪に囲まれているのに、そっと静かに、元からそこに存在していたように。
決して主張しているわけではないのに。
咲き乱れる花の中では目立たないはずなのに、なぜだか俺の心を惹きつけた。
「あの、すみません、この花って……」
そう言いかけて、言葉が止まる。
「はい?」と、店から出てきた女性店員さんの微笑みを見た瞬間、気付いてしまったから。
彼女に、似ているのだ。
色とりどりの花たちに囲まれても、褪せない彼女の微笑み。花の世話をしながら、ずっと口元に浮かんでいる。その微笑みに、仕事終わりの俺は何度も癒されていた。
「あ、いつもお店の前を通っていらっしゃる方ですよね」
そう言いながら、さらに微笑む。
彼女も俺を知っていてくれたのか。
「このお花が、どうかされましたか?」
「あ、いや。この花、ください」
それだけ伝えて、俺はレジの方に向かった。
花の名前はまだ知らない。
けど、明日もここへ来る理由ができた。
1/8/2026, 3:52:27 PM