8.安らかな瞳
テーマパークを楽しんだ私たちは、祖父母にお土産を買うところだった。母のカバンから軽快な音がなり、母は「先に見ておいで」とだけ言って携帯を手に取った。私たちはそんなことも気にも止めないで、心を踊らせてお土産を見ていた。しばらくして、母は青ざめた顔をしてやって来た。
「じいちゃんの命が危ないって。」
私は母に同情するように顔を青くして、その事実に反応した。正直、祖父は以前から身体がか弱く、いつ死んでもおかしくはなかった。そう思っていても、不安な気持ちがこみ上げてくる。幸いなことに、テーマパークから祖父の病院までは数kmほどだったので、心を落ち着かせようとする。私は買い物中の妹の手を取って車へ走った。妹は何が起きたかわからないまま、買い物を中断されて不満なのが伺える。そんな感情はいったん放っておいて、私たちは車に乗って病院へ向かうことにした。妹は慌てふためいていたが、私があんな事実を伝えた途端、悲しみをあらわにして沈黙していた。
そんなことをしているうちに病院へ到着した。祖父の病室の番号を確認して急いで駆けつけた。祖父はくたびれたような様子で天井を見つめている。私達たちが来ても驚きも嬉しさも表現せず、ただ死を待っているだけだった。もうどうしようもできなかった。私たちに人の命を扱うことなど到底できない。目の前で力尽きていく祖父に私は何もできない事を悔やみ、手を握った。ほんのり温かい手で平常心を保ち、祖父の生きている姿を目に焼き付ける。
しばらくして、点滴の機械が鳴りだした。ピ、ピ、ピーーィ。その機械には楕円が表示されており、その楕円が私たちにぽかりと空いた穴を表しているようだった。そして、祖父は目を閉じ、永眠した。
私たちは静かに涙を流し、生前の祖父の瞳を思い出す。とても苦しそうな瞳だった。いつ襲ってくるかわからない敵とひたすら戦っていた。私たちには想像もできないような戦いが祖父の身体で繰り広げられていたのだ。それでも祖父は強靭な敵に勝つことができず、苦しい顔をして瞳を閉じた。でも、私には瞳を閉じる数秒間、安らかな顔をしていたように思えた。その顔は生涯対の満足感と私たちの幸福を願うような表情に思えた。私はその表情を見て安堵しつつも、祖父の命を途絶えさせた敵を今でも恨んでいる。
3/14/2024, 10:49:08 AM