【愛があればなんでもできる?】
「愛を知らないかって?」
旅人に話しかけられたキツツキは、木をつつくのをやめて、きょとんと首をかしげました。
「動物の国じゃ、聞いたことがないね。そういうのは、人間のほうが知ってるんじゃないかなぁ。人間の国はあっちだよ」
翼で方向をしめし、またせわしなく木をつつきはじめます。
旅人はキツツキにお礼を告げて、人間の国へと旅立っていきました。
「あい? それがあればなんでもできるって、ほんと?」
旅人に愛のありかを尋ねられた人間の子供は、目をまるくしました。
「あたしもほしいなぁ。そうしたら、あたしもおとうとも、さむくないのに」
裸足の子供が抱えた小さな赤ん坊は、裸も同然でした。子供たちは、震えていました。
「そういえば、ろぼっとはなんでもできるって、きいたことがあるよ。もしかしたら、ろぼっとがあいなのかも。ろぼっとのくには、このみちのさきだよ」
旅人は子供にお礼を告げ、ロボットの国を目指して旅立ちました。
「ザンネン、ナがら、トウコクの、データに、アイは、ノってイませン」
古いブリキのロボットは、旅人の問いにたどたどしく答えました。口元のネジが錆びついていて、うまく喋れないようです。
「トウコクには、アりませンが、トナリの、ペテンシのクニで、アイのバイバイが、オこなわレた、というキロクが、ノコッテイます」
旅人はロボットにお礼を告げて、ペテン師の国へと旅立っていきました。
「ああ、愛か。いくらでもあるぜ。ほれ」
ペテン師の男は、旅人に人形をほうり投げました。布と綿で作られた人形は、埃と土で薄汚れていました。
「あんたの有り金ぜんぶと交換だ。愛はそれだけ価値のあるものだからなァ」
旅人からたっぷりお金を受け取ったペテン師は、機嫌良く笑いました。
「愛は人によってかたちが違うらしいぜ。俺にとっちゃ、この金こそが愛なんだ。これだけあれば、なんでもできるだろうよ」
旅人はもらった人形をよく洗って、ぴかぴかの人形にしました。そして、もと来た道を戻りました。
ロボットの国では、人形の目のボタンを使って、古いロボットの錆びついたネジを開けました。人形のもう一つの目で新しいネジを作って、ロボットの口がスムーズに動くようにしました。ロボットはとても喜びました。
人間の国では、子供が連れている赤ん坊に、人形の服を着せてあげました。さらに人形の皮を使って、子供の靴を作りました。靴には人形の綿をすこし詰めました。子供はたいそう喜びました。新しい服を着た赤ん坊も、キャッキャと喜んでいるようでした。
動物の国では、キツツキの巣穴を、残りの人形の綿でふかふかにしました。キツツキは「これで卵を温めやすい」と大喜びでした。
動物の国を出たころには、旅人の手元にはなにも残っていませんでした。
旅人は自分の国に戻り、愛は他の国では見つからなかったと、主人に告げました。
主人はがっくり肩を落としました。
「それさえあれば、もっと素晴らしい世界を創造できるはずなのだが」
神の国に住む主人は、がっかりしながらも、旅人の旅をねぎらいました。
「そういえば、そなたはいつからわたしに仕えていてくれたのだったかな。……なに? わたしが生まれたときからだと?」
主人は驚いて、まじまじと旅人を見つめました。
「そうだったか。そなたをしょっちゅう旅に出していたから、忘れてしまったようだ。たしかにそなたは、ずっと昔からわたしとともにあったな。わたしの兄弟のようなものだ」
主人は旅人の手を取り、改めて感謝を告げました。
「おお、いまなら素晴らしい世界を創れる気がしてきたぞ。よし、さっそくとりかかろう。そなたも協力してくれ」
旅人は満足そうに笑って、うなずきました。自分こそが愛だということは、黙っていました。愛は寡黙なのです。そして、しょっちゅう見失われるものなのです。
5/17/2023, 2:24:16 AM