ののの糸糸 * Ito Nonono

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No.48『彼女がいる日常』
散文/掌編小説/恋愛

 出逢わなければよかった。そう思っても、後の祭りだ。わたしは彼女に出逢ってしまった。それは、今から三年前にまで遡る。

 あれは暑い夏の日のことだった。暑さの割に、蝉の声も聞こえず、何故だか静かだったことを思い出す。彼女と出逢った瞬間、まるで時間が止まったかのように辺りの音も消えてしまって、振り返る彼女がスローモーションのように見えた。
「あれから三年になるのね」
 目の前の彼女はそう言って、紙ストローを細い指先で弄んだ。この時間がつまらないと言うよりは、何を言おうか考えている素振りを見せているけど、彼女の口から出る言葉はいつも、わたしを彼女に縛りつける。
「今年も一緒にいましょうね」
 そう言って微笑む彼女はとても綺麗で。わたしは彼女の赤いルージュが引かれた唇が、次の言葉を紡ごうと動くのから目が離せなかった。


お題:逃れられない呪縛

5/24/2023, 9:49:00 AM