ぽんまんじゅう

Open App

〈夢じゃない〉



 僕がいつも通りソファーに座ってテレビを見ていると、膝の上にいつの間にか愛犬が乗っていた。膝にぬくもりが伝わってくる。この子は本当に甘えん坊だ。僕がそっと背中を撫でると、愛犬は嬉しそうにこちらを見た。真っ黒な丸い目が宝石のように輝いている。愛犬はそっと僕の手を舐めた。ああ、幸せだな。この時間がずっと続けば良いのに。

 テレビでいきなり派手な音楽が流れ出し、僕は目を開けた。いつの間に眠っていたのだろう。ふと下を見ると愛犬はもうそこには居なかった。
 そうだった。あの子はもう居ないんだ。

 1週間前、愛犬は静かに息を引き取った。寿命だった。最期まで幸せに生きたのだからと自分に言い聞かせても、寂しくて、悲しくて、僕はずっと泣いていた。
 膝の上に手を当てると、まだ少し温かかった。あの子の温もりだ。
 もしかして、あれは夢じゃなかったのかな。泣いている僕を心配してもう一回来てくれたのかな。
 さっき見た愛犬の笑顔を思い出す。なんだか、僕を励ましてくれているような顔だった。
 いつまでもぐずぐずはしていられない。あの子に心配をかけない為にも、これからはちゃんと生きていこう。あれが夢じゃなかったのなら、きっと天国から見守ってくれているはずだから。

8/9/2025, 10:00:45 AM