エルルカ

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【お題:霜降る朝】

 息を吐けば白く濁る。足元を見れば、霜が降りており、踏む度にサクサクと小気味よい音がする。

「いやー、今日は寒いねぇ」
「そうだな……それで、何の用だ。アイン。」

 深い青い髪に瞳。白衣を纏った姿はそれでも寒いのに、寒さを増させるような色合いと格好である。
 ……色合いに関してはもう一人、もっと冷たい男を知っている身としては、思うだけに留めたいところだが。

「態々、シャルが居ない時を狙って来たんだ。俺に用があるのだろう」
「ま、そうなんだけど、別にシャルくんの有無は関係ないよ。君に話したら必然的に彼に話がいくだろうし?」

 眉を顰めると、変なことを言ったかな? と態とらしく小首を傾げられた。
 こういうところは、伊達に長く生きていないと言わざるおえない。

 レークスロワ最初の不死者の研究、エレメントノワールの成功作。俺と同じく、死に方を知らない者。
 そして、能力上、一度見たもの、聞いたものを忘れることができないこいつは、世界の知識……レークスロワの管理人である、司書エルに補佐として望まれた。
 結果的に、本人があちらこちら行って、不死を消す方法、即ち己自身の死に方探しが困難になった。

 そうして、こいつの駒として白羽の矢が立ったのが自分だ。
 元々、互いに死に方を探すために協定のようなものを結んでいた仲ではある。
 だからと言って、人使いが荒いような気が最近はするが。

「次は何処へ行けと?」
「何処へというか……調べる対象を少し変えてみようかなって」
「変える?」
「そ。今のところ君達は、レークスロワ各地の神話を調べているだろう? それ自体は僕も異論は無いけど、結局魔術も知らないといけないと思うんだよね」

 エレメントノワールは元素を、異端児研究は人外を。
 それぞれ何かしらを使って不死者を生み出した訳だが、それがなぜ成功したのか、成功作であるはずの自分達が一番理解していない。
 とにかく、自分の中に流れているものが、様々な人外を寄せ集めたものだと知っているから、神話を調べているに過ぎないが……そこに魔術が関わっていた可能性は否定できない。

 大小異なれど、レークスロワに生まれた者ならば、魔力を持つ。
 無意識に、魔力が使われた可能性は充分あった。

「魔術か……」
「うん、だからね、僕の権限をフルに使ってさ、君にはレークスロワの外側を見に行ってほしいんだよね」
「外側……?」
「多次元宇宙? パラレルワールド? まぁ言い方は任せるけど、別世界の魔術やら神話やらを調べて欲しいんだ。場所は指定するし、世界に繋がる扉は僕が開いてあげるからさ」

 そう言って、アインは手のひらをこちらに向ける。
 そこには、耳につける通信機が二つ。

「コレ、僕が改良した魔道具。別世界でも僕と連絡が取れるから、持ってて。一個はシャルくんの分ね」
「いつの間にこんなものを……」

 アインは基本的には生物と魔術の科学者だが、その延長線で、魔道具改良などもしている。
 つくづく天才という者はいるものだ。

「どうせ、拒否権はないのだろう。わかった、何処へでも行かせればいい」
「流石話が早くて助かるよ憖くん。じゃ、まずはね……」

 とある日の霜降る朝、二人の不死者の密約が交わされる。
 この密約が、後々、レークスロワと転移者を結ぶ一つとなるのだが……それはずっと後の歴史の話。

ーあとがきー

久しぶりに、語り部は憖さん!
というか、まだ3回目な気がしますね?
前回は、愛を注いでの後半語り部でした。
せっかくだから、新旧四対で唯一出していた知識の話を出そうかと、アインくんと憖さんの会話。
世界の知識と呼ばれているのは、司書エルちゃんの方ではありますが、アインくんはアインくんで、知識の補佐と呼ばれます。今後この呼び方をする時がある……かもしれません?

憖さんに関しては、異端児の話が一年近く前の話題なので、ちょっと振り返ってきたのですが、めちゃくちゃ小出しに出されてたので、異端児って結局何ぞや……みたいになってますね。
補足するとレークスロワ史の中では不死者の研究に入ってます。なので、異端児研究と呼ばれています。
黒影柊という方が、体の弱い妻を長生きさせたいと始めた研究で、究極論として不死者の研究になった感じですね。
長生きを突き詰めたら、そもそも死なないことがいいのではないか……となった。という経緯です。

異端児はこのくらいでしょうか……名前だけ出たシャルくんは、今後語り部になるといいなぁと思います。
今言えるのは憖さんと行動を共にしている方、ということですね。本当は出そうかと思ったのですが、シャルくん出すと収集が付かなさそうだったので…w

さて、長くなってしまいましたが今回はここまで。
では、またどこかで。
                   エルルカ

11/28/2025, 5:11:51 PM